BECK / Colors
2016年のフジロック、2日目のヘッドライナーにBECKが決まったときの喜びは今でもはっきり覚えている。
Beck - Loser (live at Fuji Rock Festival 2016. 2016/07/23)
10代の頃、音楽に目覚めた僕は友人たちと競うように90年代の音楽を貪り聴いていたわけだが、なかでもBECKが僕らに与えた影響はとても大きかったように思う。
『Mellow Gold』『Odley』のグルーヴィなリズム、ギターリフ、『Guero』のヒップホップを基調にサンプリングを多用したサウンドから、『Mutation』『Sea Change』の美しいギターサウンド、クールなボーカルと豊かなメロディ。
そのカラフルなアルバムたちは、どれも一つ一つ特別で力のある作品だった。
10代で聴いていた音楽は一生付き合っていくもの、とは良く言うが、中でもBECKは僕らの青春の中で大きなウェイトを占めていただろう。
そのBECKのライブが観れる。ましてやフジロックのメインステージで。
2016年のフジロックは20周年ということもあってかなり豪華な布陣だったわけだが、中でも特に楽しみにしていたアーティストだった。
一抹の不安もあった。
「BECKはスタジオワークこそ天才的だが、ライブはあまり良くない。」
これもまた、良く聞く話だった。
確かにアルバム1枚でいくつ音色使うんだよ?というサウンドアレンジや、サンプリング・ボイスチェンジを多用した自由自在なサウンドがBECKの一つの大きな特徴ではあった。
以前ライブを観た友人も、「ライブはそうでもない」と言っていたので、期待し過ぎは止めておこう…という気持ちもあった。
しかし、実際のBECKのライブは、めちゃくちゃに格好良かった。
セットリストは『Loser』はもちろん、『Devil's Haircut』『Hell Yes』『Mixed Bisiness』『Paper Tiger』『Sex Laws』『E-Pro』『Where It's At』とまさにグレイテストヒッツ。
サウンドはよりスタジアム仕様にロック寄りになり、Joey WaronkerとDwayne Mooreのリズム隊は超強靭。
Jason Falknerのギターもキレッキレだし、なによりBECK本人のカリスマ性がもうヤバい。
50歳間近であんなに水玉模様の似合う人はいない…と曲関係ないが、とにかく素晴らしいライブだったのだ。
BECKの音楽は、もちろんシンガロングもあるし踊れるのだが、アルバムを聴く限りどちらかというと内向的な印象をもっていた。
だが2016年フジロックのBECKは、完全にスタジアム仕様でパーティモードに仕上がっていた。
2016年は多くのライブに行ったが、確実にハイライトのひとつになるライブだった。
前置きが長くなったが、BECKの新作『Colors』は、そのモード全開のまま作り上げたアルバムだろう。
Beck - Up All Night - Later… with Jools Holland - BBC Two
前々作『Modern Guilt』と前作『Morning Phase』は、どちらかというと地味で内向的な、しっとりしたアルバムだったわけだが、そこから3年半後の本作は180度違う。
ヒット曲作る気満々だぜ!と言わんばかりの、ポップでダンサブルで、大きな会場でのライブ映えしそうな気がする曲たちである。
アルバムの宣伝文句で、「全曲キラーチューン!」みたいな言葉を散見する。
実際には全然そんなことないのがほとんどだが、今回の『Colors』は本当にそう。全曲シングルでも通用するレベルのポップチューン揃いだ。
Beck - Dreams (Official Audio)
2015年発売のシングル『Dreams』はもちろん、表題曲の『Colors』、8曲目『Up All Night』、4曲目『Dear Life』あたりはライブでフロアがブチ上がるところが簡単に想像出来る。
5曲目『No Distraction』なんかは、イントロからのギターの絡み方とリズムはいかにもBECKらしい。
BECKが本気で踊らせにきていることが伺える、心底テンションの上がる1枚になっていると思う。
正直に言うと、これまでのBECKの作品にあったようなアルバム全体を通じた緩急やユーモア、ダイナミクスはそこまで感じられない。
サウンドもダンスよりのアレンジ一辺倒なところは否めないし(『Wow』や『Fix Me』といった曲はあるものの)、得意の多様な音色使いや自由自在なサンプリングがほとんどないのは少し残念だった。
それでも今のバンドメンバーの良さがよく現れた、ポップで踊れる素晴らしいアルバムだと思う。
思えばBECKのこれまでの作品も、常に新しい要素のある、「今までのBECKにはない1枚」だった。
そのキャリアからしてみれば、今までのBECKとは違うなーと感じるのは当然と言えるのかもしれない。
ただ一貫しているのは、どのアルバムもBECKの天才的なポップセンスが見受けられるところだと思う。
今作『Colors』は、特にその側面が強く押し出されたアルバムだと感じた。
2017年は多くの素晴らしいアルバムが世に出されたが、その中でも間違いなく印象的な1枚になることだろう。
ここからはあくまで推測だが、BECKは2014年『Morning Phase』をリリースするあたりまで、長年脊椎損傷の治療にあたっていたそうで、曲を作るにもかなりの苦労を強いられていたそう。
その鬱憤を晴らすかのように、オーディエンスと一緒に騒いで踊れる、今作のようなアルバムを作ったんじゃなかろうか。
その背景を知ると、より今作『Colors』からBECKのポジティブなエネルギーが感じられてやまないのだ。
来る2017年10月23,24日には来日公演が控えているが(23日武道館のスペシャルゲストはなんとコーネリアス…!)、僕は行けないので予定の空いている方はぜひ行った方がいい。
ダンスホールになった武道館が縦に揺れまくることが予想されるので、替えのTシャツを3枚は持っていくことをお勧めする。