Kamashi Washington / Harmony of Difference
Harmony of Difference [帯・解説付 / 国内仕様輸入盤CD] (YTCD171JP)
- アーティスト: Kamasi Washington,カマシ・ワシントン
- 出版社/メーカー: Young Turks
- 発売日: 2017/09/22
- メディア: CD
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いま、個人的にジャズがかなりアツいと思っている。
そもそもジャズに造詣が深いわけではないし、そこまで多くのアーティストを聴いてきたわけではないので専門的なことは何も言えないが、
現代のジャズシーンを語る上で、この人を抜きにしては語れないことはわかる。
Kamasi Washington - Truth (Live at Hollywood Bowl)
『Harmony of Difference』は2017年9月に発売された、カマシ・ワシントン2作目となるミニ・アルバム。
まず一聴して思うのは、もちろんいい意味で「超聴きやすくてずっと聴いてられるアルバム」だということ。
前作・デビュー作の2015年『The Epic』は、その「叙事詩」というタイトル通り3枚組/約3時間という、これまでのジャズの歴史をすべてブチ込んだような超大作だったが、
それゆえに少し胃がもたれるというか、ヘヴィな印象は否めなかった。
The Epic [帯解説 / 国内仕様輸入盤 / 3CD] (BRFD050)
- アーティスト: KAMASI WASHINGTON,カマシ・ワシントン
- 出版社/メーカー: BEAT RECORDS / BRAINFEEDER
- 発売日: 2015/05/16
- メディア: CD
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今作『Harmony of Difference』は、1曲目の『Desire』からして超スムースでメロディアス。
そこから2曲目のスウィングが心地よい『Humillity』へ繋がって、そのままラスト13分超えの大曲『Truth』へ、まったく捨て曲なしで進んでいく。
全体の印象として、かなり聴きやすくとっつき易いアルバムになっている思う。
その要因はたくさんあると思うが、まず感じるのはそのメロディのポップネス。
一曲一曲のテーマ部分はもちろん、各個人のソロも超ポップで耳になじむし、カマシとポップ・ミュージックとの近い距離を思わせる。
カマシ・ワシントンがヒップホップやR&Bのメインストリームの作品に数多く参加している、その一因を感じることができる。
そしてなにより、バンド全体のバランス感覚が素晴らしい。
作品自体はカマシ・ワシントンのソロ作だし、カマシ本人のソロパートがいいのはもちろんだが、まったくと言っていいほど独りよがりになっていない感じがする。
ジャズという音楽と、ソロ(即興)とは切っても切れない関係にあると思うが、ビッグネームの演奏に個人的に散見するのが「俺のソロを聴けぇぇえ!!」と言わんばかりの、パッションぶちまけるような演奏である。
それはそれでもちろんジャズという音楽のひとつの醍醐味だと思うし、そういった演奏で心底感動する素晴らしいソロもある。
だがカマシのソロは、バンドとしてのバランス・構成・ダイナミクスを計算した、非常に知的な演奏に思える。
あくまで曲・バンド全体の進行のなかでの「役割」としてのソロ。
当たり前と言えば当たり前だが、それをここまで表現しまとめあげることができるのは、バンマスたるカマシの器の大きさに他ならない。
もちろん力強いブロウもあり、心震える場面もあるのだが、それでもどこか冷静に全体を俯瞰するようなカマシの姿が浮かぶ。
見た目は近距離パワー型のように見えるのだが、実際のところカマシ・ワシントンはインテリジェンスに溢れた、緻密な音楽家なのだと思う。
(良い意味で見た目と裏切られる、という点では同じく現代ジャズシーン主役の片翼、ロバート・グラスパーと似ているかもしれない。彼もまたルックスは近距離パワー型に見える。失礼。)
実はこの『Harmony of Difference』は非常にコンセプチュアルな作品でもある。
1〜5曲目まで、異なるテーマの独立した楽曲が並び、6曲目『Truth』はそれら5曲のテーマを一つにまとめた形で構成されている。
最初聴いたときは正直気がつかなかったのだが、確かにそのような構成になっていて、ここでもやはり緻密な音楽家としてのカマシ・ワシントンという人物が感じられる。
このアルバムの構成は、作曲技法における「対位法」というものらしいのだが、カマシ本人はこの「対位法」について、
”類似性と違いとのバランスをとって、別々のメロディの間にハーモニーを作りだすアート”
と定義しているらしい。
正直、学に乏しい僕にはなんのこっちゃよくわからんのだが、ここまでコンセプチュアルで実験的な作品が、これだけポップで聴きやすく馴染み易い楽曲たちで構成されている、ということ、は本当に凄まじいことだと思う。
単純に一曲一曲を切り取っても良い曲で、なおかつそれを一つにまとめたときにアルバムとしての全体の形が美しくある。
こんな理想的な話があるのか…と思ってしまった。
この作品はアルバムを通して聴いてもらうのがもちろんいいのだが、特に圧巻なのはやはり6曲目『Truth』だろう。
5分過ぎからのサックスソロとツインドラムの、約3分半に渡って絡み合いながら上昇してくパートは、本当に素晴らしいと思う。素晴らしすぎて「マジヤバい」以外の語彙を失いかけたので、ぜひ聴いてみてほしい。
(YouTubeに『Truth』の公式音源が上がっているのだが、なぜか貼付けできないので自力で検索してください…)
これまでの音楽生活の中でもジャズはいくらか聴いてきてはいたが、まさか自分がジャズでこんなに感動させられるとは思わなかった。(渋さ知らズは別枠です。それはまたの別の機会に)
それくらい衝撃だったので、今回あまり得意ではないジャンルながら紹介させていただきました。
これまでのジャズのイメージというと、正直60年代あたりで止まっている印象があって、はじめてジャズを聴きますという人たちが手に取るのは、マイルスだったりビル・エヴァンスだったりコルトレーンだったりしたんじゃないかと思う。
彼らの音楽が素晴らしいのはもちろんだし僕も聴くけれども、その時代に取り残されている感は否めなかったんじゃないだろうか。
しかし、いまこの時代の音楽としてのジャズで、心底格好良いと思えるアーティストが出てきたことは、個人的にかなり嬉しいことだ。
今回のカマシ・ワシントンはもちろん、ロバート・グラスパーやサンダーキャットといったアーティストたちが、ジャズを現代に引き戻して、さらに先へ押し進めてくれるに違いない。
R. Glasper, Kamasi Washington, Thundercat, T. Martin, C. Dave - Untitled 05 (Kendrick Lamar)
余談になるが、カマシ・ワシントンやロバート・グラスパーは、ケンドリック・ラマーやフライングロータスの作品に参加している。
この二人、音楽大学(的なところ)出身で、ゴリゴリのアカデミックなジャズを学んできている人たち。
その人たちが、ヒップホップみたいなストリートの音楽シーンに参戦するって、超カッコ良くないですか?
おそらくはそういうストリートな音楽やポップミュージックが、身体に馴染みながら育った上で、表現方法として体系的に身につけたものがジャズだった、ということだと思うのだが、
なんというか、ずるいわーと思う。クール過ぎる。そりゃカッコ良いわけだわ。と思ってしまう。
余談ついでに。
カマシの作品やライブでベースを弾いている、マイルス・モズレー。
この人、コンバスを弾きながらボーカルもこなすのだが、ライブがめちゃくちゃカッコ良いのでぜひ。
Miles Mosley - ABRAHAM - Santa Monica Pier
この曲、カマシ・ワシントンの2016年フジロックでも披露していたのだが、
予備知識無しでこれを観たときはやられました。超カッコ良かった。
レッチリ観ないでカマシ・ワシントンに行くという僕の決断は大正解でした。
次回の来日も楽しみにしてます。