音楽視聴記録

音楽中心にいろいろ書いたりする予定です

Enjoy Music Club / FOREVER

 

FOREVER

FOREVER

 

 恥ずかしながら2015年にリリースされたこの愛すべき名アルバムを2017年も終わりにさしかかろうかというこの時期まで聴いてこなかったのだが、それからEnjoy Music Club = EMCを聴かずに過ごしてしまった2度の夏を後悔するほどに素晴らしい作品だった。

これは完全にテン年代を生きる僕らのための歌で、音楽を愛する、愛すべきサブカルナードたち必聴のアルバムである。

いまさらそんなこと言われなくとも当然チェック済みだよとお思いかもしれないが、アツいものがこみ上げてしまったので筆を走らせて下さい。

 

個人的にHIPHOPは、その時代の空気感を強く表す音楽だと思っていて、スチャダラパーには90年代のムード、KICK THE CAN CREWRIP SLYMEには00年代の匂いが確かにある。

そんな中で『EMC/FOREVER』は10年代の匂いをたっぷり詰め込んだアルバムになっている。サンプリングやトラックの元ネタには古い曲たちが豊富につかわれているが、ライムや曲の風景は確実に「いま、ここ」の日常が歌われていて、「わかるわー」の量がハンパじゃない。特に僕らのような、正直イケてないサブカル・ミュージックナードたちは、わかりすぎて泣けてくるレベル。すべてのポップミュージックの歌詞は普遍性をもっているはずだしそうあるべきなのは当たり前だが、EMCの歌う日常はその刺さる深度が尋常じゃなく深く、有り体に言えばまさに「僕らのことを歌っている歌」なのである。とはいえあくまでそれはミュージックナードクラスタだけの話なのかもしれないが、少なくとも僕にとってはそう感じられてならないのである。

歌詞だけをとってみても素晴らしいのだが、MC E = 江本裕介のボーカルとトラックがまた最高なのだ。元ネタを大胆すぎるほどまんまつかっているがそれがまた力の抜けたラップとハマッているし、正直いって目新しさは感じられないけれども心地よさは抜群。メロディラインや歌い方は小沢健二の全盛期を彷彿とさせる。

少し長くなるが一曲ずつ振り返ってみる。(また一曲一曲がそれに耐えうる強度をもっていると思う。)

 

 

アルバム一曲目の『ENJOY OPENING』からしてラップじゃなくフォークソングのような、Eテレの5分番組OPみたいなポップネス全開で、既にただ者じゃなさを感じる。

 

2曲目『EMCのラップ道』で一気にやられる。

トラックは思いっきり『シェリル・リン/GOT TO BE REAL』だが、アレンジとメンバーによるガヤがリトル・バード・ネーションの感じを想起させる。まるで『スチャダラパー/GET UP AND DANCE』みたいで、「ニンニキニキニキ ニンニキニキニキ」と歌いだしそうな雰囲気すらある。

soundcloud.com

soundcloudに上がってるデモ?ヴァージョンよりアルバム収録版の方がよりLB感強い)


GET UP AND DANCE

アルバム通してスチャへのリスペクトを感じるけれども、スチャダラパーといえばポンキッキーズという印象が強いかもしれない。それこそ『GET UP AND DANCE』はポンキッキーズのOP曲としても有名だが、EMCも子供向け番組いけそうだなと思って調べてみたらEテレ「シャキーン!」に曲使われてたりするのね。納得。(個人的にEテレは大好きで、特に使われている楽曲はハイセンスなものが多い印象。大人の本気の遊びを感じる。)

友達のライブを観に行って感化されて何かやらなきゃ!って感覚も超わかる。観るたびにかっこ良くなっていく友達のバンドをみて感じる焦燥感。かつてバンドマンだった人たちならみんな経験あるんじゃないだろうか。そうしてこんなアルバムを作っちゃったEMCからは勇気すらもらえる。そしてアウトロの「what a cool ? We are !」ってめちゃイケじゃん、ってこれも世代感。

 

3曲目『EMCトラベル』のトラックはもっと酷い。(褒めてます)まんま『松本伊代/センチメンタルジャーニー』。


unkind LIVE:ENJOY MUSIC CLUB「EMCトラベル」

曲の内容は、旅行きたいねーなんつって色々調べるけど結局どこにも行かないで部屋にいる、って話。これも「わかるわー」って人多いのでは。Google Earth使って世界中旅してる感じだけ楽しむ、なんてしてるうちに夕方になってる…というのも僕にはよくある話。

 

4曲目『Taylor Swift』の歌詞も秀逸。コンビニが最近糖質制限ばっかで味気ないとか、マッドマックスを君とIMAXで観たいとかパンチライン続出。そしてサビのメロディラインやサウンドはまるでceroのようで、江本裕介の非凡さをここにも感じる。

 

5曲目『N・A・T・S・U』。

これも『スチャダラパーサマージャム95'』を明確に意識した曲。この曲の歌詞もまぁ酷くて(褒めてます)、部屋にエアコンがないからバイトしてヤフオクでエアコン買ったらジャンク品つかまされた、ってだけの話。それでも言葉の選び方や情景がいまの都市生活を鮮やかに描いていて、過ぎていく10年代の夏の空気感がたっぷり詰まっている。サマージャム95'は確かに夏を代表するHIPHOPの大名曲だけれども、「夏!クラブ!ナンパ!思い出!」よりも、合コン帰りの女子大生をただ眺めているだけの方がよっぽど僕らのリアル。

 

6曲目『いいトゥモロー』。

これまた超大胆元ネタ使いでまんま『Kool & The Gang/Celebration』。

soundcloud.com

この曲もワード選びが秀逸で、Year !めっちゃホリディとかピザポテトとかクールランニングとか、出てくる単語がおしなべてエモい。またしてもサビのメロが素晴らしいのだが、今度は小沢健二を感じる。終わっちゃったねーいいとも。と思ったらEMC公式Twitterのトップ画がこれまた良いチョイス。

twitter.com

 

7曲目『エンジョイクラブソング』。


Enjoy Music Club 『エンジョイクラブソング』 (MUSIC VIDEO)

個人的には一番パンチラインが詰め込まれた一曲。今日はあのクラブに良いアーティストが出るんだけどなんか足が向かわなくて、行ったら行ったで居心地良くなくて、ここは自分の居場所じゃないなって思うあの感じ。世界中のミュージックナードたちが猛烈にうなずくんじゃないだろうか。モヤモヤしながら松屋でビビン丼とかもう俺じゃん!俺のことじゃん!ってなる。うまいぞ!安くていい飯だ!

”もしも彼女になったらね

タラ、レバー食べて祝ってね

現実はたらればで後悔だ

だからラップしてサンクラで公開だ!”

は最強のパンチラインだと思う。無理やり鱈とレバーを食わせて韻を踏みにいくなんて愛おしさすら感じる。トラックもホーンのアレンジはカクバリズムのバンドのようで最高。

 

8曲目『ナイトランデブー』は、ザ・なつやすみバンドの中川理沙をフューチャーしたメロウなトラックが心地良い一曲。


ENJOY MUSIC CLUB & ザ・なつやすみバンド「ナイトランデヴー」LIVE

最近あんまり話してないけど実際会ったらあんまり話さない、っていうのもわかりすぎる。夜の情景がロマンチックでアルバムの中では独自の雰囲気をもってる曲なんだけど、こんなこともできちゃうのね、って感じ。ストーリー的には何も起きないんだけどそこが逆にリアルで、本当にロマンチックな瞬間ていうのは何も起きないんだよなぁと思ってしまう。3'00”すぎのメロディなんて、これまた小沢健二の『LIFE』に入っていても不思議じゃないような美しさがある。

 

9曲目『WORKER'S DELIGHT feat, PROPOSE』。

普段仕事をしながらラップをする。実際に音楽だけで食ってる人は本当に少なくて、音楽活動してる人たちの多くは別の仕事をしながらやっているんじゃないかと思う。でもそれが音楽に結びついていて、それがあるからこそ音楽が新しく生まれる。音楽を愛するってことは実はそういうことで、音楽が日常で日常が音楽なんだよってことを再確認できたような気がする。曲の雰囲気は全然違うけど、『七尾旅人/およそこの宇宙に存在する万物全てが【うた】であることの、最初の証明』と同じことを言ってくれている気がする。

 

10曲目『クリスマスをしようよ』。

Homecomingsとのコラボ。最初この曲を聴いたときは、never young beachみたいなコード進行だなと思ったんだけどHomecomingsでした。待ち合わせがローソンというところが良い。実際のクリスマスは、よくあるJポップの歌詞のようにロマンチックで綺麗すぎるほど綺麗なものでは当然なくて、少し地味で、だけどワクワクしてちょっとだけ特別で素敵なものなんすよね。柄にも無く今年のクリスマスが楽しみになってしまった。あとHomecomingsはもっと日本語の曲を作った方がいいです。

 

11曲目『BIG LOVE』。

soundcloud.com

トラックが秀逸。ceroセカンド『My Lost City』の後半に入っててもおかしくない。ラップでウェディングソングというのもいまや定番と化してるけども、偶有割拠の曲たちの中でも埋もれないだろうと思うのは、トラックの秀逸さと歌詞のあまりの普通さゆえじゃないだろうか。なんというか、普通に良いこと言ってる、その感じが刺さるような。

 

12曲目『EMJOY MUSIC FOREVER』。

もうイントロが完全にオザケン小沢健二セカオワなんかじゃなくEMCと新しいブギーバックをつくるべきだったのではないだろうか。今年素晴らしいアルバムを作ってくれた思い出野郎Aチームとのコラボ。随所に感じたカクバリっぽさがここに極まって、サブカルナード女子歓喜

"ENJOY MUSIC FOREVER"というシンプルな言葉はきっとEMCが1番言いたかったことで、ありきたりな言葉かもしれないけどここまで『FOREVER』を聴いてきた僕たちにはとても説得力のある言葉に聞こえる。このアルバムの中には彼らの音楽やポップカルチャーへの愛がギチギチに詰め込まれているからだ。ひとつひとつのフレーズ、トラックにその愛を感じることができる。

あえて意地悪な言い方をすれば既聴感があるわけだがそれは当然で、僕たちが何かを創造するときには全くのゼロからイチを作りだすわけではなく、親しんできたカルチャーや聴いてきた音楽や観て育ったテレビ番組や、そういったあらゆるものがその材料になっているからだ。それは自覚・無自覚を問わず必ずそうで、すべての創作物は他の創作物との関係性・連続性の中で存在していると言ってもいい。そもそもヒップホップという音楽にしてみれば、元来他の音楽やカルチャーへのリスペクト/カウンターという要素をおおいに含んでいるものなのだから当然といえば当然だ。EMCはその点に明確に自覚的で、むしろ突き詰めていて、開き直っているからこそ良いのだ。『FOREVER』の中にポップカルチャーへの愛情を詰め込んだEMCは、僕ら10年代サブカルナードの代弁者なんだろう。

 

ちなみにこの『FOREVER』には隠しトラック的な曲も入っている。アルバムのCDトレイの下にDLコードがあったそうなのだが全然誰にも気づかれず、しびれをきらしてYouTubeに上げてくれている。


ENJOY MUSIC CLUB 『よろしくね』

これ、もうSMAPじゃん!SMAPがシングルでヒット飛ばしまくってたころのサウンドとメロディで、ある意味Jポップ初期衝動をSMAPで感じてきた僕ら世代には落涙必至なんです。それでもやっぱり歌詞は現代の僕らのことで、隠しトラックにしとくには本当にもったいない一曲。

 

 

さてここまで熱っぽく5,000字近く書きなぐって来てしまったわけだが、それくらいEMCにはやられた。冒頭でも書いたがEMCを聴いてこなかった2年半を本当に後悔しています。なんで誰も教えてくれなかったんや!!当然ライブも観たことがないし観てみたし、これからもぜひ注目していきたいと思います。あと個人的にEMCのグッズがとてもかわいいので年甲斐も無く手を出したくなります。

emcgoods.thebase.in

 

 

最後に、アルバムと関係ない曲ですが。バカリズム脚本出演、オードリー若林・二階堂ふみ出演のTVドラマ『住住』主題歌だった、『そんな夜。』


ENJOY MUSIC CLUB「そんな夜」

ドラマ自体もとっっても面白かったんだけど主題歌のこの曲がまぁ良い。(ドラマ放送当時は気にしてなかった…)友達の家になんとなく集まって、お菓子とビールで長々内容のない話をして。高校・大学時代に近所の友達の家でよく集まったのを思い出して、つい涙腺がゆるみそうになってしまった。あの頃は集まる理由なんてなんでも良くて、毎日音楽聴きながら過ごして楽しかったなぁなんてセンチメンタルになってしまう。またいつか意味なく集まって馬鹿やれるときを、この曲を聴きながら楽しみにしています。

Kamashi Washington / Harmony of Difference

 

 

Harmony of Difference [帯・解説付 / 国内仕様輸入盤CD] (YTCD171JP)

Harmony of Difference [帯・解説付 / 国内仕様輸入盤CD] (YTCD171JP)

 

いま、個人的にジャズがかなりアツいと思っている。

そもそもジャズに造詣が深いわけではないし、そこまで多くのアーティストを聴いてきたわけではないので専門的なことは何も言えないが、

現代のジャズシーンを語る上で、この人を抜きにしては語れないことはわかる。 


Kamasi Washington - Truth (Live at Hollywood Bowl)

 

『Harmony of Difference』は2017年9月に発売された、カマシ・ワシントン2作目となるミニ・アルバム。

まず一聴して思うのは、もちろんいい意味で「超聴きやすくてずっと聴いてられるアルバム」だということ。

前作・デビュー作の2015年『The Epic』は、その「叙事詩」というタイトル通り3枚組/約3時間という、これまでのジャズの歴史をすべてブチ込んだような超大作だったが、

それゆえに少し胃がもたれるというか、ヘヴィな印象は否めなかった。

 

The Epic [帯解説 / 国内仕様輸入盤 / 3CD] (BRFD050)

The Epic [帯解説 / 国内仕様輸入盤 / 3CD] (BRFD050)

  • アーティスト: KAMASI WASHINGTON,カマシ・ワシントン
  • 出版社/メーカー: BEAT RECORDS / BRAINFEEDER
  • 発売日: 2015/05/16
  • メディア: CD
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今作『Harmony of Difference』は、1曲目の『Desire』からして超スムースでメロディアス。

そこから2曲目のスウィングが心地よい『Humillity』へ繋がって、そのままラスト13分超えの大曲『Truth』へ、まったく捨て曲なしで進んでいく。

全体の印象として、かなり聴きやすくとっつき易いアルバムになっている思う。

 

その要因はたくさんあると思うが、まず感じるのはそのメロディのポップネス。

一曲一曲のテーマ部分はもちろん、各個人のソロも超ポップで耳になじむし、カマシとポップ・ミュージックとの近い距離を思わせる。

カマシ・ワシントンがヒップホップやR&Bのメインストリームの作品に数多く参加している、その一因を感じることができる。

そしてなにより、バンド全体のバランス感覚が素晴らしい。

作品自体はカマシ・ワシントンのソロ作だし、カマシ本人のソロパートがいいのはもちろんだが、まったくと言っていいほど独りよがりになっていない感じがする。

ジャズという音楽と、ソロ(即興)とは切っても切れない関係にあると思うが、ビッグネームの演奏に個人的に散見するのが「俺のソロを聴けぇぇえ!!」と言わんばかりの、パッションぶちまけるような演奏である。

それはそれでもちろんジャズという音楽のひとつの醍醐味だと思うし、そういった演奏で心底感動する素晴らしいソロもある。

だがカマシのソロは、バンドとしてのバランス・構成・ダイナミクスを計算した、非常に知的な演奏に思える。

あくまで曲・バンド全体の進行のなかでの「役割」としてのソロ。

当たり前と言えば当たり前だが、それをここまで表現しまとめあげることができるのは、バンマスたるカマシの器の大きさに他ならない。

もちろん力強いブロウもあり、心震える場面もあるのだが、それでもどこか冷静に全体を俯瞰するようなカマシの姿が浮かぶ

見た目は近距離パワー型のように見えるのだが、実際のところカマシ・ワシントンはインテリジェンスに溢れた、緻密な音楽家なのだと思う。

(良い意味で見た目と裏切られる、という点では同じく現代ジャズシーン主役の片翼、ロバート・グラスパーと似ているかもしれない。彼もまたルックスは近距離パワー型に見える。失礼。)

 

 

実はこの『Harmony of Difference』は非常にコンセプチュアルな作品でもある。

1〜5曲目まで、異なるテーマの独立した楽曲が並び、6曲目『Truth』はそれら5曲のテーマを一つにまとめた形で構成されている。

最初聴いたときは正直気がつかなかったのだが、確かにそのような構成になっていて、ここでもやはり緻密な音楽家としてのカマシ・ワシントンという人物が感じられる。

このアルバムの構成は、作曲技法における「対位法」というものらしいのだが、カマシ本人はこの「対位法」について、

”類似性と違いとのバランスをとって、別々のメロディの間にハーモニーを作りだすアート”

と定義しているらしい。

正直、学に乏しい僕にはなんのこっちゃよくわからんのだが、ここまでコンセプチュアルで実験的な作品が、これだけポップで聴きやすく馴染み易い楽曲たちで構成されている、ということ、は本当に凄まじいことだと思う。

単純に一曲一曲を切り取っても良い曲で、なおかつそれを一つにまとめたときにアルバムとしての全体の形が美しくある。

こんな理想的な話があるのか…と思ってしまった。

 

 

この作品はアルバムを通して聴いてもらうのがもちろんいいのだが、特に圧巻なのはやはり6曲目『Truth』だろう。

5分過ぎからのサックスソロとツインドラムの、約3分半に渡って絡み合いながら上昇してくパートは、本当に素晴らしいと思う。素晴らしすぎて「マジヤバい」以外の語彙を失いかけたので、ぜひ聴いてみてほしい。

YouTubeに『Truth』の公式音源が上がっているのだが、なぜか貼付けできないので自力で検索してください…)

 

 

これまでの音楽生活の中でもジャズはいくらか聴いてきてはいたが、まさか自分がジャズでこんなに感動させられるとは思わなかった。(渋さ知らズは別枠です。それはまたの別の機会に)

それくらい衝撃だったので、今回あまり得意ではないジャンルながら紹介させていただきました。

これまでのジャズのイメージというと、正直60年代あたりで止まっている印象があって、はじめてジャズを聴きますという人たちが手に取るのは、マイルスだったりビル・エヴァンスだったりコルトレーンだったりしたんじゃないかと思う。

彼らの音楽が素晴らしいのはもちろんだし僕も聴くけれども、その時代に取り残されている感は否めなかったんじゃないだろうか。

しかし、いまこの時代の音楽としてのジャズで、心底格好良いと思えるアーティストが出てきたことは、個人的にかなり嬉しいことだ。

今回のカマシ・ワシントンはもちろん、ロバート・グラスパーやサンダーキャットといったアーティストたちが、ジャズを現代に引き戻して、さらに先へ押し進めてくれるに違いない。


R. Glasper, Kamasi Washington, Thundercat, T. Martin, C. Dave - Untitled 05 (Kendrick Lamar)

 

余談になるが、カマシ・ワシントンやロバート・グラスパーは、ケンドリック・ラマーやフライングロータスの作品に参加している。

この二人、音楽大学(的なところ)出身で、ゴリゴリのアカデミックなジャズを学んできている人たち。

その人たちが、ヒップホップみたいなストリートの音楽シーンに参戦するって、超カッコ良くないですか?

おそらくはそういうストリートな音楽やポップミュージックが、身体に馴染みながら育った上で、表現方法として体系的に身につけたものがジャズだった、ということだと思うのだが、

なんというか、ずるいわーと思う。クール過ぎる。そりゃカッコ良いわけだわ。と思ってしまう。

 

余談ついでに。

カマシの作品やライブでベースを弾いている、マイルス・モズレー

この人、コンバスを弾きながらボーカルもこなすのだが、ライブがめちゃくちゃカッコ良いのでぜひ。


Miles Mosley - ABRAHAM - Santa Monica Pier

この曲、カマシ・ワシントンの2016年フジロックでも披露していたのだが、

予備知識無しでこれを観たときはやられました。超カッコ良かった。

レッチリ観ないでカマシ・ワシントンに行くという僕の決断は大正解でした。

次回の来日も楽しみにしてます。

BECK / Colors

 

Colors

Colors

 

2016年のフジロック、2日目のヘッドライナーにBECKが決まったときの喜びは今でもはっきり覚えている。

 


Beck - Loser (live at Fuji Rock Festival 2016. 2016/07/23)

 

10代の頃、音楽に目覚めた僕は友人たちと競うように90年代の音楽を貪り聴いていたわけだが、なかでもBECKが僕らに与えた影響はとても大きかったように思う。

『Mellow Gold』『Odley』のグルーヴィなリズム、ギターリフ、『Guero』のヒップホップを基調にサンプリングを多用したサウンドから、『Mutation』『Sea Change』の美しいギターサウンド、クールなボーカルと豊かなメロディ。

そのカラフルなアルバムたちは、どれも一つ一つ特別で力のある作品だった。

10代で聴いていた音楽は一生付き合っていくもの、とは良く言うが、中でもBECKは僕らの青春の中で大きなウェイトを占めていただろう。

そのBECKのライブが観れる。ましてやフジロックのメインステージで。

2016年のフジロックは20周年ということもあってかなり豪華な布陣だったわけだが、中でも特に楽しみにしていたアーティストだった。

 

一抹の不安もあった。

BECKはスタジオワークこそ天才的だが、ライブはあまり良くない。」

これもまた、良く聞く話だった。

確かにアルバム1枚でいくつ音色使うんだよ?というサウンドアレンジや、サンプリング・ボイスチェンジを多用した自由自在なサウンドがBECKの一つの大きな特徴ではあった。

以前ライブを観た友人も、「ライブはそうでもない」と言っていたので、期待し過ぎは止めておこう…という気持ちもあった。

 

しかし、実際のBECKのライブは、めちゃくちゃに格好良かった。

セットリストは『Loser』はもちろん、『Devil's Haircut』『Hell Yes』『Mixed Bisiness』『Paper Tiger』『Sex Laws』『E-Pro』『Where It's At』とまさにグレイテストヒッツ。

サウンドはよりスタジアム仕様にロック寄りになり、Joey WaronkerとDwayne Mooreのリズム隊は超強靭。

Jason Falknerのギターもキレッキレだし、なによりBECK本人のカリスマ性がもうヤバい。

50歳間近であんなに水玉模様の似合う人はいない…と曲関係ないが、とにかく素晴らしいライブだったのだ。

 

BECKの音楽は、もちろんシンガロングもあるし踊れるのだが、アルバムを聴く限りどちらかというと内向的な印象をもっていた。

だが2016年フジロックBECKは、完全にスタジアム仕様でパーティモードに仕上がっていた。

2016年は多くのライブに行ったが、確実にハイライトのひとつになるライブだった。

 

 

前置きが長くなったが、BECKの新作『Colors』は、そのモード全開のまま作り上げたアルバムだろう。

 


Beck - Up All Night - Later… with Jools Holland - BBC Two

 

前々作『Modern Guilt』と前作『Morning Phase』は、どちらかというと地味で内向的な、しっとりしたアルバムだったわけだが、そこから3年半後の本作は180度違う。

ヒット曲作る気満々だぜ!と言わんばかりの、ポップでダンサブルで、大きな会場でのライブ映えしそうな気がする曲たちである。

アルバムの宣伝文句で、「全曲キラーチューン!」みたいな言葉を散見する。

実際には全然そんなことないのがほとんどだが、今回の『Colors』は本当にそう。全曲シングルでも通用するレベルのポップチューン揃いだ。


Beck - Dreams (Official Audio)

2015年発売のシングル『Dreams』はもちろん、表題曲の『Colors』、8曲目『Up All Night』、4曲目『Dear Life』あたりはライブでフロアがブチ上がるところが簡単に想像出来る。

5曲目『No Distraction』なんかは、イントロからのギターの絡み方とリズムはいかにもBECKらしい。

BECKが本気で踊らせにきていることが伺える、心底テンションの上がる1枚になっていると思う。

 

正直に言うと、これまでのBECKの作品にあったようなアルバム全体を通じた緩急やユーモア、ダイナミクスはそこまで感じられない。

サウンドもダンスよりのアレンジ一辺倒なところは否めないし(『Wow』や『Fix Me』といった曲はあるものの)、得意の多様な音色使いや自由自在なサンプリングがほとんどないのは少し残念だった。

それでも今のバンドメンバーの良さがよく現れた、ポップで踊れる素晴らしいアルバムだと思う。

思えばBECKのこれまでの作品も、常に新しい要素のある、「今までのBECKにはない1枚」だった。

そのキャリアからしてみれば、今までのBECKとは違うなーと感じるのは当然と言えるのかもしれない。

ただ一貫しているのは、どのアルバムもBECKの天才的なポップセンスが見受けられるところだと思う。

今作『Colors』は、特にその側面が強く押し出されたアルバムだと感じた。

2017年は多くの素晴らしいアルバムが世に出されたが、その中でも間違いなく印象的な1枚になることだろう。

 

ここからはあくまで推測だが、BECKは2014年『Morning Phase』をリリースするあたりまで、長年脊椎損傷の治療にあたっていたそうで、曲を作るにもかなりの苦労を強いられていたそう。

その鬱憤を晴らすかのように、オーディエンスと一緒に騒いで踊れる、今作のようなアルバムを作ったんじゃなかろうか。

その背景を知ると、より今作『Colors』からBECKのポジティブなエネルギーが感じられてやまないのだ。

 

来る2017年10月23,24日には来日公演が控えているが(23日武道館のスペシャルゲストはなんとコーネリアス…!)、僕は行けないので予定の空いている方はぜひ行った方がいい。

 

ダンスホールになった武道館が縦に揺れまくることが予想されるので、替えのTシャツを3枚は持っていくことをお勧めする。

ohagi music etcについて

10年ぶりくらいにブログをはじめてみようと思います。

主に音楽の話中心で、あとは好きな映画とか漫画とかコーヒーの話とか。

備忘録的なかんじで使う予定です。

よろしくお願いします。