音楽視聴記録

音楽中心にいろいろ書いたりする予定です

Enjoy Music Club / FOREVER

 

FOREVER

FOREVER

 

 恥ずかしながら2015年にリリースされたこの愛すべき名アルバムを2017年も終わりにさしかかろうかというこの時期まで聴いてこなかったのだが、それからEnjoy Music Club = EMCを聴かずに過ごしてしまった2度の夏を後悔するほどに素晴らしい作品だった。

これは完全にテン年代を生きる僕らのための歌で、音楽を愛する、愛すべきサブカルナードたち必聴のアルバムである。

いまさらそんなこと言われなくとも当然チェック済みだよとお思いかもしれないが、アツいものがこみ上げてしまったので筆を走らせて下さい。

 

個人的にHIPHOPは、その時代の空気感を強く表す音楽だと思っていて、スチャダラパーには90年代のムード、KICK THE CAN CREWRIP SLYMEには00年代の匂いが確かにある。

そんな中で『EMC/FOREVER』は10年代の匂いをたっぷり詰め込んだアルバムになっている。サンプリングやトラックの元ネタには古い曲たちが豊富につかわれているが、ライムや曲の風景は確実に「いま、ここ」の日常が歌われていて、「わかるわー」の量がハンパじゃない。特に僕らのような、正直イケてないサブカル・ミュージックナードたちは、わかりすぎて泣けてくるレベル。すべてのポップミュージックの歌詞は普遍性をもっているはずだしそうあるべきなのは当たり前だが、EMCの歌う日常はその刺さる深度が尋常じゃなく深く、有り体に言えばまさに「僕らのことを歌っている歌」なのである。とはいえあくまでそれはミュージックナードクラスタだけの話なのかもしれないが、少なくとも僕にとってはそう感じられてならないのである。

歌詞だけをとってみても素晴らしいのだが、MC E = 江本裕介のボーカルとトラックがまた最高なのだ。元ネタを大胆すぎるほどまんまつかっているがそれがまた力の抜けたラップとハマッているし、正直いって目新しさは感じられないけれども心地よさは抜群。メロディラインや歌い方は小沢健二の全盛期を彷彿とさせる。

少し長くなるが一曲ずつ振り返ってみる。(また一曲一曲がそれに耐えうる強度をもっていると思う。)

 

 

アルバム一曲目の『ENJOY OPENING』からしてラップじゃなくフォークソングのような、Eテレの5分番組OPみたいなポップネス全開で、既にただ者じゃなさを感じる。

 

2曲目『EMCのラップ道』で一気にやられる。

トラックは思いっきり『シェリル・リン/GOT TO BE REAL』だが、アレンジとメンバーによるガヤがリトル・バード・ネーションの感じを想起させる。まるで『スチャダラパー/GET UP AND DANCE』みたいで、「ニンニキニキニキ ニンニキニキニキ」と歌いだしそうな雰囲気すらある。

soundcloud.com

soundcloudに上がってるデモ?ヴァージョンよりアルバム収録版の方がよりLB感強い)


GET UP AND DANCE

アルバム通してスチャへのリスペクトを感じるけれども、スチャダラパーといえばポンキッキーズという印象が強いかもしれない。それこそ『GET UP AND DANCE』はポンキッキーズのOP曲としても有名だが、EMCも子供向け番組いけそうだなと思って調べてみたらEテレ「シャキーン!」に曲使われてたりするのね。納得。(個人的にEテレは大好きで、特に使われている楽曲はハイセンスなものが多い印象。大人の本気の遊びを感じる。)

友達のライブを観に行って感化されて何かやらなきゃ!って感覚も超わかる。観るたびにかっこ良くなっていく友達のバンドをみて感じる焦燥感。かつてバンドマンだった人たちならみんな経験あるんじゃないだろうか。そうしてこんなアルバムを作っちゃったEMCからは勇気すらもらえる。そしてアウトロの「what a cool ? We are !」ってめちゃイケじゃん、ってこれも世代感。

 

3曲目『EMCトラベル』のトラックはもっと酷い。(褒めてます)まんま『松本伊代/センチメンタルジャーニー』。


unkind LIVE:ENJOY MUSIC CLUB「EMCトラベル」

曲の内容は、旅行きたいねーなんつって色々調べるけど結局どこにも行かないで部屋にいる、って話。これも「わかるわー」って人多いのでは。Google Earth使って世界中旅してる感じだけ楽しむ、なんてしてるうちに夕方になってる…というのも僕にはよくある話。

 

4曲目『Taylor Swift』の歌詞も秀逸。コンビニが最近糖質制限ばっかで味気ないとか、マッドマックスを君とIMAXで観たいとかパンチライン続出。そしてサビのメロディラインやサウンドはまるでceroのようで、江本裕介の非凡さをここにも感じる。

 

5曲目『N・A・T・S・U』。

これも『スチャダラパーサマージャム95'』を明確に意識した曲。この曲の歌詞もまぁ酷くて(褒めてます)、部屋にエアコンがないからバイトしてヤフオクでエアコン買ったらジャンク品つかまされた、ってだけの話。それでも言葉の選び方や情景がいまの都市生活を鮮やかに描いていて、過ぎていく10年代の夏の空気感がたっぷり詰まっている。サマージャム95'は確かに夏を代表するHIPHOPの大名曲だけれども、「夏!クラブ!ナンパ!思い出!」よりも、合コン帰りの女子大生をただ眺めているだけの方がよっぽど僕らのリアル。

 

6曲目『いいトゥモロー』。

これまた超大胆元ネタ使いでまんま『Kool & The Gang/Celebration』。

soundcloud.com

この曲もワード選びが秀逸で、Year !めっちゃホリディとかピザポテトとかクールランニングとか、出てくる単語がおしなべてエモい。またしてもサビのメロが素晴らしいのだが、今度は小沢健二を感じる。終わっちゃったねーいいとも。と思ったらEMC公式Twitterのトップ画がこれまた良いチョイス。

twitter.com

 

7曲目『エンジョイクラブソング』。


Enjoy Music Club 『エンジョイクラブソング』 (MUSIC VIDEO)

個人的には一番パンチラインが詰め込まれた一曲。今日はあのクラブに良いアーティストが出るんだけどなんか足が向かわなくて、行ったら行ったで居心地良くなくて、ここは自分の居場所じゃないなって思うあの感じ。世界中のミュージックナードたちが猛烈にうなずくんじゃないだろうか。モヤモヤしながら松屋でビビン丼とかもう俺じゃん!俺のことじゃん!ってなる。うまいぞ!安くていい飯だ!

”もしも彼女になったらね

タラ、レバー食べて祝ってね

現実はたらればで後悔だ

だからラップしてサンクラで公開だ!”

は最強のパンチラインだと思う。無理やり鱈とレバーを食わせて韻を踏みにいくなんて愛おしさすら感じる。トラックもホーンのアレンジはカクバリズムのバンドのようで最高。

 

8曲目『ナイトランデブー』は、ザ・なつやすみバンドの中川理沙をフューチャーしたメロウなトラックが心地良い一曲。


ENJOY MUSIC CLUB & ザ・なつやすみバンド「ナイトランデヴー」LIVE

最近あんまり話してないけど実際会ったらあんまり話さない、っていうのもわかりすぎる。夜の情景がロマンチックでアルバムの中では独自の雰囲気をもってる曲なんだけど、こんなこともできちゃうのね、って感じ。ストーリー的には何も起きないんだけどそこが逆にリアルで、本当にロマンチックな瞬間ていうのは何も起きないんだよなぁと思ってしまう。3'00”すぎのメロディなんて、これまた小沢健二の『LIFE』に入っていても不思議じゃないような美しさがある。

 

9曲目『WORKER'S DELIGHT feat, PROPOSE』。

普段仕事をしながらラップをする。実際に音楽だけで食ってる人は本当に少なくて、音楽活動してる人たちの多くは別の仕事をしながらやっているんじゃないかと思う。でもそれが音楽に結びついていて、それがあるからこそ音楽が新しく生まれる。音楽を愛するってことは実はそういうことで、音楽が日常で日常が音楽なんだよってことを再確認できたような気がする。曲の雰囲気は全然違うけど、『七尾旅人/およそこの宇宙に存在する万物全てが【うた】であることの、最初の証明』と同じことを言ってくれている気がする。

 

10曲目『クリスマスをしようよ』。

Homecomingsとのコラボ。最初この曲を聴いたときは、never young beachみたいなコード進行だなと思ったんだけどHomecomingsでした。待ち合わせがローソンというところが良い。実際のクリスマスは、よくあるJポップの歌詞のようにロマンチックで綺麗すぎるほど綺麗なものでは当然なくて、少し地味で、だけどワクワクしてちょっとだけ特別で素敵なものなんすよね。柄にも無く今年のクリスマスが楽しみになってしまった。あとHomecomingsはもっと日本語の曲を作った方がいいです。

 

11曲目『BIG LOVE』。

soundcloud.com

トラックが秀逸。ceroセカンド『My Lost City』の後半に入っててもおかしくない。ラップでウェディングソングというのもいまや定番と化してるけども、偶有割拠の曲たちの中でも埋もれないだろうと思うのは、トラックの秀逸さと歌詞のあまりの普通さゆえじゃないだろうか。なんというか、普通に良いこと言ってる、その感じが刺さるような。

 

12曲目『EMJOY MUSIC FOREVER』。

もうイントロが完全にオザケン小沢健二セカオワなんかじゃなくEMCと新しいブギーバックをつくるべきだったのではないだろうか。今年素晴らしいアルバムを作ってくれた思い出野郎Aチームとのコラボ。随所に感じたカクバリっぽさがここに極まって、サブカルナード女子歓喜

"ENJOY MUSIC FOREVER"というシンプルな言葉はきっとEMCが1番言いたかったことで、ありきたりな言葉かもしれないけどここまで『FOREVER』を聴いてきた僕たちにはとても説得力のある言葉に聞こえる。このアルバムの中には彼らの音楽やポップカルチャーへの愛がギチギチに詰め込まれているからだ。ひとつひとつのフレーズ、トラックにその愛を感じることができる。

あえて意地悪な言い方をすれば既聴感があるわけだがそれは当然で、僕たちが何かを創造するときには全くのゼロからイチを作りだすわけではなく、親しんできたカルチャーや聴いてきた音楽や観て育ったテレビ番組や、そういったあらゆるものがその材料になっているからだ。それは自覚・無自覚を問わず必ずそうで、すべての創作物は他の創作物との関係性・連続性の中で存在していると言ってもいい。そもそもヒップホップという音楽にしてみれば、元来他の音楽やカルチャーへのリスペクト/カウンターという要素をおおいに含んでいるものなのだから当然といえば当然だ。EMCはその点に明確に自覚的で、むしろ突き詰めていて、開き直っているからこそ良いのだ。『FOREVER』の中にポップカルチャーへの愛情を詰め込んだEMCは、僕ら10年代サブカルナードの代弁者なんだろう。

 

ちなみにこの『FOREVER』には隠しトラック的な曲も入っている。アルバムのCDトレイの下にDLコードがあったそうなのだが全然誰にも気づかれず、しびれをきらしてYouTubeに上げてくれている。


ENJOY MUSIC CLUB 『よろしくね』

これ、もうSMAPじゃん!SMAPがシングルでヒット飛ばしまくってたころのサウンドとメロディで、ある意味Jポップ初期衝動をSMAPで感じてきた僕ら世代には落涙必至なんです。それでもやっぱり歌詞は現代の僕らのことで、隠しトラックにしとくには本当にもったいない一曲。

 

 

さてここまで熱っぽく5,000字近く書きなぐって来てしまったわけだが、それくらいEMCにはやられた。冒頭でも書いたがEMCを聴いてこなかった2年半を本当に後悔しています。なんで誰も教えてくれなかったんや!!当然ライブも観たことがないし観てみたし、これからもぜひ注目していきたいと思います。あと個人的にEMCのグッズがとてもかわいいので年甲斐も無く手を出したくなります。

emcgoods.thebase.in

 

 

最後に、アルバムと関係ない曲ですが。バカリズム脚本出演、オードリー若林・二階堂ふみ出演のTVドラマ『住住』主題歌だった、『そんな夜。』


ENJOY MUSIC CLUB「そんな夜」

ドラマ自体もとっっても面白かったんだけど主題歌のこの曲がまぁ良い。(ドラマ放送当時は気にしてなかった…)友達の家になんとなく集まって、お菓子とビールで長々内容のない話をして。高校・大学時代に近所の友達の家でよく集まったのを思い出して、つい涙腺がゆるみそうになってしまった。あの頃は集まる理由なんてなんでも良くて、毎日音楽聴きながら過ごして楽しかったなぁなんてセンチメンタルになってしまう。またいつか意味なく集まって馬鹿やれるときを、この曲を聴きながら楽しみにしています。